バッテリーの研究者になるには~授業編

最近バイクを買いました。いろんなとこにツーリングに行ってます。



だいぶ遅れましたが、リチウムイオン電池が今年のノーベル化学賞に選ばれたということで便乗して記事を書いてみます。

自己紹介でも書きましたが、私は現在アメリカの大学院で学生として、リチウムイオン電池材料の研究をしています。もともと日本にいたときの学部、大学院の専攻は物理学ですが、こっちに来てNanoengineeringの専攻にシフトチェンジしました。ですので、研究分野は電池関係のことをやっていますが、学部大学院時代に授業を受けて培ってきたバックグラウンドは少しずれがあります。電池に限らず太陽電池や燃料電池などは、比較的新しい研究分野で、複数の学問領域にまたがっています。例えば素粒子を学びたいと思ったら、物理学科に入って物理学科の必修や選択授業を受けていれば(そしてそこそこの成績でパスできれば)、自然と研究をスタートする下地ができていることになりますが、電池の研究をしたいとなると、物理、化学、電気、(場合によってはバイオ)など一つの学部ではカバーできません。ただ、最低限研究をするうえで必要な下地はあります。

ここでは、(バッテリーに限らず)エネルギー材料の研究をするうえで、履修しておくべき科目を挙げてみます。科目名と実際に学ぶことは大学や教授ごとに違うので、シラバスを確認してください。ここではあくまで一般名で紹介していきます。逆に言うと、大学院で研究分野を変えたいと思っている人も、以下の科目を履修しておけば、進学後もスムーズに順応できるんじゃないかと思います。

1.電気化学

バッテリーや燃料電池は「化学」反応をして「電気」を取り出しているので必修です。電気化学も教える人によっては古典的な内容になりがちだと思うので、できればエネルギー材料を研究している教授が教えている授業を履修するといいと思います。なぜなら、一般的な導出などの話でも応用例として、エネルギー材料に絡めて話してくれるので、より実用的かと思います。内容としてはかなりの応用になるので、「熱力学」、「電磁気学」、「量子力学」、「流体力学」などを受けてからでないとかなりきついです。おそらく学部3年後期~大学院生レベルがちょうどいいかと。

2.熱力学

多分いちばん重要な科目の一つ。そして同時に一番挫折しやすい科目。基本的には電池内部の化学は熱力学で表されるので、ベースの学問として重要。一度で理解できなくてもあきらめないこと。私は今でも完全には理解できてません。ただ、ある程度ほかの科目も学んだあとにまた戻って学んでみると、意外と理解できることもある。また、理学系の熱力学の授業で挫折した人は工学系のほうで履修してみるのも一つの手かと思います。私が理学部物理で学んだときはかなり概念的だったけれど、今学んでいるのはかなり実用的なイメージです。電気化学の授業と同じく、電池の研究者が教えてるとバッテリーに絡めた話をしてくれるので実用的。

3.量子力学

理学工学系のすべての学生の鬼門「量子力学」ですが、かなり重要。なぜなら、材料研究では、電池内部のイオンや電子を観察することになるので、それらを表すのにベースとなる学問が量子力学。また、現在使われている実験手法はどれも量子力学的な理解がないと、データが取れても何が起こっているのかわかりません。各種分光手法や電子顕微鏡とかです。とはいえ、ごりごりにシュレーディンガー方程式を解けとか、そういうことはないので安心してください。

4.その他

学部前半で学ぶ基本的な数学、古典力学や電磁気学は直接役に立つということは多くないですが、上記の科目を理解するうえで基礎として必要になります。私は専門ではないですが、有機合成やポリマー化学なども作りたい電池(ポリマー電池とか)や研究してみたい領域(電解液)によっては知っておくと便利だと思います。正極材料や固体電解質をやりたい場合は結晶学を学んでおくとX線回折などスムーズに理解できます。




以上です。書いてみると実質3個しか思いつかなかったです。ということで、そんなに参入ハードルは高くないと思います。近年では物理やバイオや医学系で当たり前に使われていた技術が材料研究に応用した例は多々あるので、むしろ他分野での研究経験がある人がこの分野に入ってくれると、イノベーションが加速できるのではないかと思います。

ではまた。